今日は彫金作品のひとつが、ようやく一段落。
ちょうど新型コロナウィルスの流行が始まったころ、
友人からリメイクの依頼を受けていました。
それは、数年前に他界されたお母さまのリングをペンダントトップにしてほしい、というもの。
預かったオパールのリングは今見ると少しアンティーク調のデザインで、
角度によって白やグリーン、そして赤い遊色も浮かぶ、高品質なオパールです。
婚約指輪として贈られたものとのこと、きっとお母さまもとてもお気に入りで
大切にされていたのでしょうね。
「リメイクに取り掛かる前に、綺麗な写真を残しておいてほしい」・・・
友人からそんなリクエストもあったので、できるだけたくさん写真を撮りました。
特にこのサイドから裏面にかけてのデザインがいいですよね。
友人からのリクエストも、
「出来ればこのアームに繋がる部分のアーチのイメージは残したい」とのことでした。
オパールという宝石はここ数年でとても人気が出ている石。
リメイクすることで今また身に着けられるなんて素敵です!
ペンダントトップのデザインはすべてお任せ・・・ということですが、さてどんなデザインにしようかな。
オパールはとてもデリケートで繊細な宝石なので、私の未熟な腕の石留めで傷付けないようにしないと。
そのためにも、石枠はこのまま使えるほうがいいかな・・・
まずは時間をかけて慎重にオパールを石枠から外します。
爪を起こして外すだけなのですが、何せ相手はオパール。
どんな作業のときにも衝撃を与えないよう、細心の注意が必要なので、ゆっくり丁寧に・・・
そして、リングの石枠部分を使ってペンダントトップに加工するには、
まず石枠部分とリングのアーム部分を切り離さなければ。
ここからが長かった・・・
新型コロナウィルスの緊急事態宣言による自粛期間もあってなかなかアトリエに行けず、
その間にスケッチ画を何枚も描いて・・・
まずは扱いやすいWAXで成型してみました。
最初に考えたデザインでは上手く出来なかったり自信なかったり、しっくりこなくて何度もやり直し。
ようやく上手く出来てもなんだか満足出来なくて先に進めなかったり。
一度なんとか鋳造に持ち込んだけど、どうしても納得できないというか、私自身の高揚感がない。
どうしてだろう、うまくいきそうで、でもうまくいかない。
そうしている間に一年が過ぎ・・・
私に出来るんだろうか・・・と不安と焦りが出始めました。
喜んでもらえるものに仕上げるには、自分自身がまず納得できるものを。
そのためにたっぷり時間をいただいているのだから。
そう言い聞かせて、またデザインを練り直し。
そしてついに今年の3月、WAXで作るのを諦め、地金をそのまま加工する方法に切り替えました。
地金を加工するのは技術が必要で、私にはちょっと難易度が高く、
できれば最小限にしたい作業でした。
だけど、頑張って地金加工する!と決めた途端、不思議なことに
悩んでいたデザインや工程がはっきりと思い浮かび、サクサクと作業が進んでいったのです!
まず、「雰囲気を残したい」と言っていたアーチの部分は厚みを半分にして4つに加工し、
爪と爪の間にロウ付け。
残りのアーム部分は厚みを整えて輪につなぎ、ロウ付けしたアーチ部分に取り付けました。
ここまで、もとのリングをそのまま使って、
少しの無駄も出ることなく全部を再利用することができました。
お母さまの肌に触れていたリングの金属をそのまま使えた・・・
我ながら良いアイデアでした!
リングからペンダントトップに変えるということで、
オパールの遊色の出かたを見て、リングのときは縦向きだったオパールを横向きにしようと考えていたので、
横向きの上になる部分にバチカン部分を新しく取り付ければ、ペンダントップの完成です。
完成前ですがバチカンの位置やバランスを確認するために
フライングして撮影した写真がこちら。
後ろがすぼんだ形だとペンダントを着けたときに落ち着きがないけど、
後ろの輪っかを付けたことで肌に付く面が広くなって落ち着くはず。
リングにはもともとお母さまのお名前が刻まれていましたが、
今回新たに、お母さま、友人、娘さんのそれぞれのイニシャルを繋げた文字を刻みます。
実はその文字は、光がまっすぐ進む様子を表す「光線」という意味の言葉でもあるのですが、
撮影しながらふと気づいたことが・・・
リングと違い、ペンダントトップにして裏側にも空間を作ることで、
オパールを通してとても美しい”光”を放っているのです。
これは嬉しい発見でした!
まさに、お母さま、友人、娘さんの3人の絆の輝きのようですね。
見える角度が変わると美しさも変わる・・・
宝石が持つ奥深さを実感します。
ここは残したい、というリクエストだったアーチの部分は爪と爪の間に配置。
収まりも良く、後ろのアームまでの距離もばっちりでした♪
方向転換してからは、不思議なほどあっという間にここまで仕上がりました。
先日、完成間近だよ~って友人に報告したとき
ちょうどお母さまの命日の頃だったので、
作業が捗り始めたのはもしかしてお母さまが応援してくださったからかなぁと話していました。
デザインと工程の方向転換も・・・
お母さまはこのリングをとても気に入っていらしたので
もしかしたら、私が考えていた新しいデザインなんかじゃなく、
やっぱりこのままの形を残してペンダントトップにしてほしいと思っていたのかもしれません。
WAXでの作業が全然思うように進まなかったのに、急にデザインと工程が閃いたり、
「え!?私ロウ付け苦手だったのに全部一回で付いた!」とか。本当に不思議なぐらいだったし。
もうひとつ不思議だったのは、
お母さまのお名前の刻印もせっかくだから残しておこうかな・・・と、
研磨の際も消えないように気を付けて作業していたのですが、
輪っかに繋ぐ際のロウ付けのとき、ロウが文字の上にかぶさってしまって・・・
(K18のロウ付けって熱伝導率の関係で、
熱を加えた場所ピンポイントでロウが付くのでズレたり流れたりすることがあまりないのに)
「新しく3人の名前を刻むのだから、私の名前は消えてもいいのよ」と言われたような気がして
これまた不思議な成り行きでした。
さて、あとは石留めと刻印。(撮影の時点では仮留めの状態)
熟練の職人さんでも「”預かり”のオパールの石留めはできれば避けたい」というほど
一番気を遣う作業なのです。
あと少し・・・のところで留まらなくてもう泣きそうだったですが(笑)
焦らず根気良く粘った甲斐あって、やっと今日しっかり留めることが出来ました。
ほっ。
最後に、業者さんにお願いする刻印が仕上がれば完成です!
友人とのやりとりの中で、メッセージにこんな素敵な言葉がありました。
「ジュエリーってタイムカプセルみたいだなって思うの。
ジュエリーは着飾る道具の一つと思う人もいるだろうけど、
それを手に取った時の思い、贈った人の思い、そういうのが閉じ込められていて、
見るたびにそのときの温かさを思い出すもの。」
その温かさを、形を変えてもちゃんと伝えられるようにするのが
今回のリメイクの大きな課題でした。
お母さまの肌に触れていたものだから、その温もりを残すためにも
リング部分も含めて何一つ無くさず、無駄にせず、形を変えて進化を遂げるイメージで・・・
基本的にデザインはお任せということでしたが、
「ファッションアイテムとして買う人には、流行遅れはもういらない!ってなるんだろうけど、
気持ちとしては母が使ってたものをそのままにしたい。
今回、リングからペンダントトップにしたいということで、
石は残っても金属の部分は全部入れ替わるのは仕方ないから、雰囲気だけでもなにか残ればと、
あのアーチのデザインの雰囲気を残したいと思って・・・」
リメイクは、昔のものを現代風のデザインにしたい、というのが一般的なのですが、
今回は「イメージを変えたい」ではなく「雰囲気を残したい」というリメイク。
あまりにも尊い課題で長い時間がかかってしまったけど、
このジュエリーが受け継がれていくであろう未来の時間を考えると
そんなに長い時間でもなかったのかもしれません。
お母さまから友人、友人からいずれ娘さんへと引き継いでいく大切なジュエリー。
お母さまが嫁がれたときの喜びに、
今回のリメイクのエピソードや友人から娘さんへの想いも加わって、
何十年にもわたって素敵なストーリーのように繋がれていくんだなぁと感動します。
そんなこんなで、
たっぷり時間をかけて精力を注いだ今回のリメイク、
私自身も納得できる会心の作になりました。
私に大切なジュエリーを託してくれて、素晴らしい経験をさせてくれた友人に
改めて感謝したいと思います。